夏祭り その1
「おっちゃん、一袋ね」
代金を渡して包みを受け取るなり、がさっと手を突っ込んでひとつを取り出した。
福助の型の人形焼きだ。
「ほらよ」
「ありがと」
団地の公園で行われている夏祭り。四角い公園の一辺に並ぶ屋台の列の端で、二人は空いていたベンチに並んで座った。佐藤は紙袋から自分の人形焼きを取り出しながら、話を再開する。目下、二人が熱中しているテレビゲーム「ドラグーンのイデア」のシナリオ中盤の最適な攻略法について、未だ決着はついていない。
「でさ、違うんだって。そこはサンデール呼んでバカスカ叩きゃ十分なんだよ」
右手で「ライトニング・インパクト」の大袈裟なジェスチャをしながら、左手に持った人形焼きにかぶりついた。彼の大きな一口で、福助の半身がもぎ取られる。
「そっちこそ分かってないなぁ。弱点属性のヴィントでトラップ張って、待ち構えてる間に自分のパラメータを上げておけば、次の砦のペースが全然違うんだって」
断言する色川は自信ありげだ。しかしその割にこの話題にはもう興味をなくしたかのように、彼は両手で持った人形焼きを見つめて何かを考えるそぶり。
「ふん、そんなことして、後で攻略タイムの評価ポイント下がってても――」
いよいよ佐藤の声を無視するように、色川はおもむろに人形焼きを口元に寄せると、外側のカリカリだけをかじり始めた。
「ちょっと待て、何してる?」
「何って何がさ」きょとんとした表情を見せ、色川は不思議そうに聞き返す。「ちょっとこのフチが気になっただけだよ」
それを聞いて察しのついた佐藤は、思わず声を荒げた。
「あぁもう、これだから模型部は! 人形焼きなんか、いちいちバリ取りしてんじゃねぇよ!」
「どうしてさ。このままじゃこいつ、人形のシルエットになりきれないまま無くなっちゃうじゃない」
そう言ってまた、輪郭の外に広がった生地を前歯でちびちびかじり続ける。彼の手の中の福助は、徐々に本来の丸い頭を現し始めた。もっとも、見えてきたのは形の正しさばかりではなかったりして。
「しまった。生地の白いとこも見えてる」
「あぁもう!」
佐藤はこれが手本だと言わんばかりに、見せ付けるような大振りの動きで福助のもう半身を頬張ると、その口が塞がったまま怒鳴った。
「どうせ食べたらなくなるんだから、早くガブッとやっちまえよ! 何の心配してんのか知らねぇけどよ、見てるとイライラしてくるっ!」
そう怒鳴られてなおマイペースに外形を仕上げながら色川は、こんな彼が第四ステージをS評価でクリアするのは困難だろうな、とぼんやり思うのだった。