秋晴れの彼女
「お上手ですね」
耳元の問いかけに振り返る。子犬連れの女性が僕の手元を覗き込んでいた。このスケッチに描き込んでいた女性だった。
僕は礼を言い、空白を埋め続ける。彼女はそれを静かに見つめている。
描き終えてまた見上げると、目が合った。彼女の背後の鱗雲が印象的で、思わずそちらに目を逸らした。
「よかったら差し上げます」
僕は画用紙を切り取る。いいんですか、と遠慮するが、声は嬉しそうで安心した。
「あの……、名前を聞いてもいいですか」
僕の問いかけに、彼女はなぜかはにかんだ。
「秋庭玲乃といいます」
なるほど今日という日に似つかわしいその名前を隅の方に書き入れて、切り取ったページを彼女に手渡した。