和やかな駆け引き
「俺さ、ホットドリンクはショートじゃないかと思うんだよね」
タンブラーを片手に、隣に座る彼が言う。その手を眺めながら私は、自分が一杯飲み切る間に彼が既に三杯目だったことを思い出す。
今日の飲み物は、アイリッシュミストとブッシュミルズのカクテル「ミスティ・ネイル」をお湯で割った変形版だ。カクテルといってもオシャレ感とは縁遠くて、ワンルームでクッション抱えながら目分量で作るし、部屋着でテレビを見ながら飲んでいる。
「温かく作ってあるものは、冷める前に飲み切るべきだろ」
「そんなこと言えるの、あんたがザルだからだよ」
「そうかなぁ」
惚けた顔をしているけれど、私をさっさと酔わそうとする手には乗ってあげない。