届いていたもの
二人で引越しの荷解きをしているとき、段ボール箱からブリキ缶を隠して持ち出すような彼女のそぶりが目に留まった。
「何が入ってるの?」
「いやっ、何でも」
裏返った声がおかしくて僕は吹き出す。
「実はね……」
何か考え直したのか、彼女は蓋を開けた。
中身は封筒だった。切手はおろか宛名もない。必要なかったんだ。僕が彼女に手渡ししていたから。
「やっぱりいい。僕が恥ずかしい」
当時の僕は今よりもっと、素直じゃなかった。口では言えない気持ちを伝えたくて手紙を書くくせに、大事なことはぼかしてばかり。
「そんなことないよ。いつも楽しみにしてた」
だから、宝物なの。そんな言葉を素直に言える君が、僕はあの頃からずっと羨ましかった。