Glenscape

Twitter300字ss 第35回 お題:「休」

太陽とくしゃみ

 ——かちゃっ。
 ——いっくし。
「ちょっと、何なのよ。部屋に入るなりくしゃみなんかして」
「いや、ほら、僕って日光浴びるとくしゃみの出る体質だから」
 一体何の話やら、彼特有のとぼけた返事に、彼女はさらにカブせてきた。
「あらやだ、誰がお天道様みたいって?」
 両手を頬に当てはにかみ、小さく首をかしげて見せる。そんな彼女をよそに彼は、片手を自分の額に当てた。掌は確かに熱を伝えてきている。おとなしく休んでいる方が良さそうだ。
「ごめん、本当は風邪でつらいからツッコミはパスね」
「何よ、そっちが最初にボケたくせに。これじゃあたしが一人でスベったみたいじゃない」
 ——いっくし。
「あぁ,寒気もする」
「寒いとか言わないで!」

長い五分の行方

 手に持ったノートを見つめたまま、私は二組の教室の戸が開けられない。森君から預かった、榊君のノートを彼に渡さなきゃいけないのに。あくまで私が咲から英和辞書を借りるついでに、だけど。
 ついでに、なんて言い聞かせてはみるものの、榊君の前に立って、榊君に話しかけて、榊君の声を間近で聞かなきゃいけない。それをする勇気が、臆病な私には全然湧いてきてくれなかった。
 それでも、次の授業はもうすぐだ。私は意を決して、教室の中に飛び込んだ。
 事情を聞いて、辞書を探す咲。その間きょろきょろ見回す私に、顔を上げた咲は驚きの言葉を発した。
「はい、京……榊君なら風邪でお休みだよ」
 そんな……でも、ほっとするような、悔しいような。