Glenscape

Twitter300字ss 第42回 お題:「遊ぶ」

京の窮地と柊部長の助け舟

 文芸部誌の編集会議。去年私がこの部を知るきっかけになった本に携われることに、私はやや興奮している。
 けれどそれ以上に私を緊張させたのは、慣れない部員ばかりで人口密度の高い部室にて繰り広げられる、普段の低い出席率からは想像できない活発な議論だった。
 引っ込み思案で人見知り。この性格がこの場をこんなに苦手にさせるなんて。縮み上がっている私に、柊部長が水を向けた。
みやこさん、あなたの意見は?」
「私は……、去年使っていた遊び紙が可愛くていいと思います」
 ―まさか、この前例への支持が更なる火種になるなんて。すっかりくじけてしまう寸前、柊部長の頼もしい声がした。
「『神は細部に宿る』と言うわ。私は京さんに賛成よ」

柊部長に憧れる理由

 本文に関係のない遊び紙にこだわりを示す私の意見に対する文芸部員の評価は様々あって、数で言えば劣勢だった。そんな中、私に代わって部長が話し始める。
「遊び紙に気を使うことに短所がある? それで読者が離れる?」
 問いかけて、順繰りに視線を移す部長。その厳かな言動に気圧されて、場にいる皆が部長を見つめ、次の言葉を静かに待つ。
「それはよく検討する必要があるわ。でもその結果、作品がより読み易くなるのなら、私もそういう最善の手を尽くして読者に良質な時間を提供したいと思う」
 ―これなんだ! 読者のために細部まで手を抜かない一途な姿勢。これが、柊部長の作品にある凛とした雰囲気の源流なんだ。私の憧れの正体だったんだ。