Glenscape

Twitter300字ss 第55回 お題:「あう」

あなたらしさの一側面

「私、アルバイトするのに向いてないのかなって……」
 鞄から情報誌をひいらぎ部長に渡して、部活中のため息の理由を告白した。
 部長は黙ってページを繰り終えて一言、
「考え過ぎ」
 私を真っ直ぐ見つめて、断言した。
「ここに載ってるのは飲食店、コンビニと接客ばかり。だから自信ないんでしょう」
 いともたやすく言い当てられてしまい、素直に頷く。
「確かにみやこさんの性格では難しいかもしれない。でも、目の前のものの合う合わないだけで、全部知ったつもりになって落ち込んじゃだめ」
 そして、私の手がそっと握られる。
「あなたらしさの一側面が明るみに出ただけ、そう考えてはどうかな」
 部長……私、この事で泣くつもりなかったんですけど、あのっ……。

名前で呼んでもらえたら

 部室を施錠するひいらぎ部長を待って、廊下を歩き出す。
「あの、みやこさん」
「はいっ」
 立ち止まって振り返る。たった数歩の距離が、そのときはやけに遠く感じた。
「部長?」
 普段は真っ直ぐな視線が、今は珍しく泳いでいる。
「その……私のことを律儀に部長と呼ぶのは、京さんだけなの。それって距離を感じるし……。私があなたをそう呼ぶみたいに、京さんにも名前で呼んでもらえたらなって……」
 最後に、目が合ってしまった。
「じゃあ、さと……先輩?」
「……うん。よろしく、京さん」

 先輩と別れてから、私はそのやり取りをずっと反芻している。それ以前の落ち込みなんて忘れて、私の顔は一人でにやけっぱなし。どうか家に着くまで誰にも会いませんように。