経験者の忠告
「少々お待ちくださいませ」
そう言って端末を操作する係員の手元を、妹は硬い表情でじっと見つめている。真剣さと不安が入り交じる目付きは、受験勉強を見てやっていた冬の夜を思い起こさせた。それをそばで見ている俺は、少し呆れている。
三月の終わり、気温は思った以上に上がり、コートの脱ぎ着が多かった。妹のはポケットが浅くて物が落ちやすそうだと、何度も注意しておいたのに。
「――届いてますね。こちらで間違いございませんか」
それは確かに妹の落とし物だった。二人で礼を言う。
「な、ここなら見つかるだろ?」
すると駅員と目が合った。
「妹さん?」
「ええ」
「似てますね」
それ……、顔じゃなくて物忘れの話? 俺のこと覚えられてる?