京の心の準備
放課後、職員室から戻った教室では舞の傍に森君がいた。
「あ、京、もう帰るよね。一緒にCD買いに行こ」
「CD?」
「そう、archeのアルバムが出たんだ」
archeはこの前私もCDを貸してもらった、二人が推してるインディーズバンドだ。
いや、正確には三人――。
隣に森君がいる手前、私は口パクで、もしかして、と伝えてみた。舞は私の意図を察して黙ったまま、小さく頷く。
「arche置いてる店なんて激レアなんだぜ」
少しずれた話をする森君がちらりと時計を見て振り返る。同時に後ろの戸が開く――。
「おう、純。何で時間ぴったりなんだよ。もっと早く来いよ」
待って、違う。これでも充分早いよ。まだ私の心の準備ができてないの!