兄弟の自由研究
「ねーもー帰ろー?」
木陰から弟が呼び掛ける。真っ赤な顔の弟は、帽子を被って首にタオルを巻き、水筒を大事そうに両手で抱えている。その姿とは対照的に、兄の方は坊主頭に虫かごだけを提げて、草むらをずっと駆け回っている。
「何言ってんだ。自由研究で標本作るんだぞ。まだまだ捕まえないと」
掲げた虫かごの中には、すでにたくさんの虫が入っている。だけど、標本にするにはまだ種類が少ない。
「標本やるのは兄ちゃんでしょ。僕のはヒマワリも松ぼっくりも、もう用意してあるからいいの」
そして弟は、自分の虫かごを持ち上げて見せつける。
「カマキリもトンボもあげるから、もー帰ろー?」
「こら、カマキリをトンボと同じかごに入れるな!」