兄弟の夏休みの終わり
「ねーもー帰ろー?」
「何言ってんだ。来たばっかじゃねーか」
「だって人多いもん」
「だから浮輪のひもはずっと持ってるだろ」
かつて海水浴場で迷子になって以来、弟は水場での人混みが苦手になっていた。お盆を過ぎた日曜日の市民プールの混雑は、やっぱり弟には堪えられないようだった。犬がリードに引かれるように、弟は入った浮輪にしがみ付いて、兄の泳ぎに任せてただプールを漂っていた。
「明日から宿題地獄の日々だぞ。最後の自由をしっかり味わえ」
「宿題残ってるの兄ちゃんだけでしょ」
黙る兄の背中に、弟が再度呼びかける。
「読書感想文みせてあげるから、もー帰ろー?」
「ばーか、六年生と三年生が同じ感想文を書けるか!」